「君臣左使」の例1―葛根湯
葛根湯は、3世紀頃に作られた傷寒論(しょうかんろん)という書物に、『項背(こうはい)強(こわ)ばること几几(しゅしゅ)、汗なく悪風(おふう)する者、葛根湯之を主(つかさど)る。』</span><span class="honbun2">(=頭の後ろから肩や背中がこわばり自然に発汗がなく寒気を自覚する人には葛根湯を用いるとよい)と記載されています。
葛根湯は、葛根(かっこん)、麻黄(まおう)、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)という、7味で構成されています。
<葛根湯の君・臣・左・使>
- 【君薬】:葛根 (体表にある邪熱を発汗清熱し、項背のこわばりを緩和する。くず湯としても有名ですが、胃の不調も整えます)
- 【臣薬】:麻黄 (麻黄は、鎮咳、利尿のほか、それ自体が強力な発汗剤ですが、桂枝とタッグを組むことで、さらに強力な発汗作用を発揮し、感冒による体表面の邪熱を発散させる)
- 【左薬】:桂枝、芍薬 (芍薬は、筋肉の緊張を緩和し皮下の毛細血管や汗腺を保護して、麻黄と桂枝による強力な発汗作用にブレーキをかけて体温調節を適正に保ちます。)
- 【使薬】:甘草、大棗、生姜 (甘草は各生薬の調整役で味の調整もします。また、大棗、生姜とともに活力の源である脾胃を補い、緊張を緩和します。生姜も、体表面の邪気を払い胃腸の機能を助け嘔気などを緩和します。)
このように、このように、葛根湯という処方は、7つの生薬が君臣左使の法則の中で、お互いに協力して働きながら、葛根湯の証(体質)にあった人の体の中で作用していることがわかります。
葛根湯は上記の作用から、風邪症候群の初期以外にも、肩こりや中耳炎、扁桃炎、リンパ節炎、乳腺炎、風邪の胃腸症状などと、応用範囲が広いことがわかります。
「君臣左使」の例2―麻黄湯
類似処方に麻黄湯(まおうとう)があり、よく高熱、悪寒、発汗のない症状としてインフルエンザなどに使われます。構成生薬は、麻黄(まおう)、桂枝、杏仁(きょうにん)、甘草の4味です。
<麻黄湯の君・臣・左・使>【君薬】:麻黄(鎮咳、利尿、発汗)【臣薬】:桂枝(桂枝は麻黄との組み合わせでさらに強力な発汗作用)【左薬】:杏仁(杏仁は、麻黄を助けて寒を去り、咳止め去痰作用を示します。)【使薬】:甘草(甘草は急迫症状を緩和し、生薬同士の調和を図ります)
麻黄湯が葛根湯と決定的に違うのは、発汗作用にブレーキをかけて体温調節をする役目の芍薬や、胃腸を守る大棗、生姜が入っていないということです。
ですから、麻黄湯は、インフルエンザなどの、急激な発熱と、まだ発汗のない時期に、数日服用して汗を出し、熱を下げるのには向いています。
が、胃腸を保護する働きがないため長くは飲めず、長期(5日以上)に服用すると、発汗のしすぎで体内の水分代謝が乱れたり、胃腸を害してしまいます。
そのため麻黄湯の処方は、短期間にするべきなのです。
つぎに、発熱と呼吸障害のメカニズムについてお伝えします。 次へ>>
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