新型コロナウイルス感染症と漢方薬
今回のコロナ騒動のように、どうしても麻黄湯を長く服用したい時は、胃薬の平胃散(へいいさん)と合わせて(これを合方(ごうほう)といいます)、麻黄湯合平胃散(まおうとうごうへいいさん)として服用すべきなのです。
ただ、麻黄湯を、短期ではなく長く服用するべき証(体質)の人は、ほんの一部です。証が変化すれば、その証に合った処方を服用するのが、漢方の治療の原則だからです。
3世紀頃に書かれた書物『傷寒論』には、
“発汗後、更に(かぜぐすりの)桂枝湯(けいしとう)をやるべからず。汗出で(あせいで)喘し、大熱無き者は麻黄杏仁石膏甘草之を主る。”
(発汗後、さらに発汗剤である桂枝湯を与えてはいけない。発汗して喘鳴し熱がない場合は、麻黄杏仁石膏甘草湯をあたえるとよい))
とあります。
発熱によって呼吸機能がおかされるメカニズムとその治療
さて、急激に起こった発熱疾患に麻黄湯を用いて発汗をさせ、解熱させるのは正しい治療法なのですが、やり方が適切でないと、体表の邪が適切に発散されず、かえって肺に侵入し、邪熱と化して、熱のために体が必要とする水分までもが、外に出されて発汗し、熱が肺にこもって呼吸機能が障害され、呼吸困難や喘鳴を起こすとされています。
人の肺は元々、呼気によって発汗や体温調節(これを宣発(せんぱつ)といいます)、吸気によって気を収めたり、水分の適切な配置(これを粛降(しゅくこう)といいます)を行っているとされています。
西洋医学では、肺は酸素と二酸化炭素の交換を主に行う臓器と考えられていますが、漢方では、胃が受け入れた水分(「津液(しんえき)」とも言います)を、脾の力によって、肺に上納し、肺が全身に水分を行き渡らせると考えます。
ですから、急性発熱疾患後、発汗させて解熱したのはいいのですが、そのやり方が適切でなかったり、なんらかの拍子に邪気が肺に侵入して肺に熱がこもってしまった場合は、単純な表寒実証の麻黄湯で治療するのではなく、麻黄湯(麻黄・桂枝・杏仁・甘草)から、温性で発汗剤の桂枝を取り除き、代わりに寒涼剤の石膏を配合し、麻黄、石膏、杏仁、甘草4味で構成された『麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)『』『』で治療せよと言っています。
麻杏甘石湯の君薬は麻黄、臣薬は石膏、左薬は杏仁、使薬は甘草で、熱を冷まし肺機能を回復することに主眼を置いている処方です。
咳嗽や喘息の治療では、病邪の寒熱の他にも、肺や気道の燥湿も考慮する必要があります。
気道の湿痰による肺の湿熱で、呼吸が障害されている場合には、湿熱を去る桑白皮(そうはくひ)を麻杏甘石湯に加えた五虎湯(ごことう)が効果を発します。
逆に、肺に慢性の虚熱があるため気道が乾燥し、わずかな刺激でも激しく咳き込む“大逆上気(たいぎゃくじょうき)”や、喉の乾燥感、刺激感、イガイガ感などの“咽喉不利(いんこうふり)”がある場合は、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を用います。、麦門冬湯は、胃を潤すことによって、結果として、肺を滋潤補気し、咳を納めます。
処方の方法はいろいろ
ここで少し、処方の方法について解説します。
合方とは、2種以上の処方を合わせて一つの処方とする方法で、経験的に証(体質)を合わせて作られたものが多くあります。
加減方とは、基本となる薬方に生薬を去加する場合で、多くの経験から生み出されており、例えば、小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)、葛根湯加川?辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)、大柴胡湯去大黄(だいさいことうきょだいおう)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)などがあります。
加味法は、元の基本となる薬方に数種類の生薬を足した処方で、加味帰脾湯(かみきひとう:帰脾湯+柴胡、山梔子(さんしし))、加味逍遙散(かみしょうようさん:逍遙散+山梔子(さんしし)、牡丹皮(ぼたんぴ))などがあります。
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