この季節は昔から“閉蔵(へいぞう)”と言われ、寒い時間帯は蔵の扉を閉じるようにして暖かい室内で過ごし、外気温が高まって空気中に陽気が満ちてから、行動を起こすようにするなど、慎重に体の中の大切な「気」を失わないような生活が心がけられていました。
しかし、忙しい現代にあって、外気に陽気が満ちるまで外出を控えるなどという悠長なことはできません。
そこで、冷え性に対しても漢方の知識を上手に用いて乗り越えてゆきましょう。
消化機能が低下するときには
人は飲食物を消化してエネルギー源として熱を産生し、さらに「後天の気」「水穀の気」を体内に取り込んでいるので、消化器系が弱って消化吸収能力が低下していると、体が冷えやすくなります。
そこでこの様な場合には体を温めたり気を益す「人参(朝鮮人参)」、「生姜」、「乾姜(かんきょう)」などの配合された方剤を使用します。
具体的には心窩部(みぞおち)の不快感や張りのある場合には『人参湯(にんじんとう)』の類を、消化管の蠕動不穏などがあって下痢をしやすい場合には『大建中湯(だいけんちゅうとう)』などの建中湯の仲間を用います。
また、臍周囲の冷えがあって下痢や身体動揺感のある場合には『真武湯(しんぶとう)』を用います。
体全体の冷え
体内の熱産生能力や新陳代謝能力が低下している場合には、これらの機能を高める「附子(ぶし)」の配合された『四逆湯(しぎゃくとう)』や、『茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)』などの方剤(附子剤)を用います。先ほど述べた『真武湯(しんぶとう)』にも附子が含まれています。
四肢の冷え、疝痛(せんつう)発作
しもやけや手足の冷えが強く、寒気に当たると腹部が冷えて発作的に痛む場合を“腹部疝痛(ふくぶせんつう)”と呼ぶことがあり、『当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)』などの方剤を用います。
おけつ(血液の流れの滞り)のある場合
冷えのぼせがあり、下腹部が痛い場合には、『桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)』、『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』などの駆お血剤(くおけつざい:お血を治す方剤)を用います。
その他加齢などによる冷え
その他、加齢に伴って冷えや頻尿のある場合には、腎虚(じんきょ)のある場合が多く、『八味地黄丸(はちみじおうがん)』が用いられ、水中に座っているかのように腰が冷える場合には『苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)』などの方剤が用いられます。
カイロを用いる時の知恵
最近では、衣服に貼るカイロを使用して体の冷えをできるだけ抑える方も多いのではないでしょうか。
貼るカイロがたくさんある時は、体の中で最も冷えて辛いところに貼るのが良いと思います。逆に枚数が限られている時などは、お腹の臍の下2〜3横指下にある気の集まる臍下丹田(せいかたんでん)に1枚、そのちょうど反対側の背中の、腎兪(じんゆ)、脾兪(ひゆ)、胃兪(いゆ)、志室(ししつ)といった体の気の流れを整える大切なツボのある部分をカバーする範囲にカイロを1枚貼ると、体の気の巡りが良くなり温まります。
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